モノタロウのAI駆動開発の全貌をご紹介します

はじめに

こんにちは!モノタロウ CTO-Office 所属の市原です。AI駆動開発チームのリーダーを務めています。

近年、生成AI技術は目覚ましい進化を遂げ、ソフトウェア開発の世界にも大きな変化をもたらしています。

モノタロウでは、「AIを活用して生産性を非連続に向上する」ことを目指してAI駆動開発への取り組みを積極的に進めています。

来月5月7日には、AI駆動開発カンファレンスにて、CTO 普川、プラットフォームエンジニアリング部門長 香川、私市原で登壇します。モノタロウでの取り組みについて、詳しくお話しさせていただく予定です。

本記事では、カンファレンスに先駆けて、モノタロウがAI駆動開発にどのように取り組んでいるのか、概要をご紹介したいと思います。

モノタロウのAI駆動開発推進体制

AI駆動開発を全社的に推進するため、トップダウンとボトムアップ、そして横展開を促す多層的なアプローチをとっています。

具体的には以下のような施策があります。

  • AI駆動開発チーム: 組織の組成によるトップダウンな企画
  • AI駆動開発ツール価値探索プログラム: 開発チームで「使ってみる」「自律的に学ぶ」活動
  • AI駆動開発トレンドラボ: 情報共有と知見の横展開
  • AI駆動開発DOJO: 生成AIツールを活用した開発手法の学習の場

推進の中心となるのがエンジニアによる専門チームであるAI駆動開発チームです。

このチームは、AI駆動開発に関する施策全体の推進、最新技術動向のキャッチアップ、そして全社的な戦略立案を担います。

そして、各チームに広く使ってもらうための取り組みとして、AI駆動開発ツール価値探索プログラムを企画しました。これは、開発現場からのボトムアップな学びと発見を促進する取り組みです。

具体的には以下のような内容です。

  • 目的
    • 開発者が自律的にAIツールを活用・学習し、組織全体のナレッジを蓄積することを目指す
  • 参加方法
    • プログラムに参加(チェックイン)することで、Devin、Cursor、Clineといった最新のAIツールの利用アカウントが必要に応じて発行されます。
    • 開発者はこれらを自分たちで触ることでAIツールに「慣れ」、使い方を「探索し」、開発プロセスへの組み込み方を学んでいくことができます。
  • エバンジェリスト制度
    • 各チームから1名以上の「AI駆動開発エバンジェリスト」を選出します。エバンジェリストは、率先してAIツールを活用し、その経験や知見を共有する役割を担います
    • エバンジェリストは後述の「トレンドラボ」への参加を求められます。
  • チャンピオン
    • エバンジェリストから選出する現場の専門家。特に目立った活躍をしたメンバーを顕彰します。PoC中の最新ツールへのアクセス権の付与などを検討しています。

AI駆動開発の構造

開発者全体のAIツール活用スキルを引き上げるための施策も計画しています。

AI駆動開発DOJO(道場): (企画中)AI駆動開発ツールの基本的な使い方や活用ノウハウに関するベースラインを定義し、全開発者のスキルを底上げするための入門者向けトレーニングプログラム

モノタロウでは従来からDOJOという社内教育制度を通じて、ソフトウェア開発に携わるメンバーの技能の底上げと共通化をはかってきました。

tech-blog.monotaro.com

AIという文脈でも、ベースラインとしてのAI活用能力の定義と獲得を目指して、DOJOを企画しています。

AI駆動開発トレンドラボ : 活動で得られた知見や最新情報を組織全体で共有し、横展開を加速させる場です。

このミーティングでは、AI駆動開発チームからの情報発信(縦の情報伝達)だけでなく、各チームでやってみた事例の紹介など、実践的な知見共有(横の連携)を重視しています。

これまでAI開発エージェントDevinの紹介や活用事例の紹介、社内のMCPツールの紹介など、3回実施し、のべ180人以上が参加しました。

今後もCline活用事例やGitHub Copilotの機能紹介など様々なトピックを予定しています。

このように、専門チームによる推進、現場での価値探索、基礎スキルの底上げ、そして組織的な情報共有という複数の施策を連携させることで、モノタロウ全体でAI時代に適合した開発フローにシフトしていけるように設計しています。

活用・検証中のAIツール

モノタロウでは、様々なAI駆動開発ツールの評価・検証を進めています。

  • Devin:
    • 概要: 自律型AIソフトウェアエンジニアとして、自然言語による指示に基づき、コーディング、デバッグ、テスト、リファクタリングなどを実行します。
    • 検証事例:
      • 受注管理システムリプレースプロジェクトにおいて、少人数チームでのAPI移植実装などに活用しました。5日間という短期間で、複数のリポジトリにまたがるバグ修正や機能追加を実現し、高い生産性を示しました。また、プロジェクト構造のドキュメント化やナレッジグラフ生成ツールのプロトタイプ作成といった開発支援タスクにも貢献しました。一方で、プロジェクト全体のような広範囲なコンテキストを扱う長大なタスク指示には課題も見られ、タスクを適切に分割して指示するノウハウが重要なのを体感しています。
      • 大企業向けのシステム開発でも活用しております。具体的な事例は、弊社佐藤によるAI駆動開発勉強会での発表をご参考ください: リスクが取りにくいシステム開発でのDevinとの付き合い方 - Speaker Deck
    • 展開: 現在、利用ガイドラインを整備し、価値探索プログラムを通じて利用チームを拡大中。現在160人以上の開発者にアカウントを発行しており、4/1〜4/15の15日間で160本ものPullRequestがDevinによって作成されました。
  • Cursor:
    • 概要: AIネイティブなコードエディタで、チャットによりコード生成できるエージェント機能、インデックス機能や複数行のコード補完・移動先の予測によるタブでのジャンプなどが特徴です。
    • 状況: GitHub Copilot(特にエージェントモード搭載版)との機能比較や費用対効果、開発者体験などを評価・検証中です。40名程度の開発者で試用しており、GitHub Copilotとの機能性の違いや、今後のエコシステムの発展を考えているところです。
  • Cline:
    • 概要: VSCode拡張機能として提供されるAI開発支援ツールです。チャット画面で対話によりコードの調査や開発ができ、ファイル編集、コマンドの実行やWeb ブランジングなどの機能を持つOSSです。
    • 状況: AnthropicのAPI Keyを発行して活用しています。200名ほどに配布し、100名以上の開発者がアクティブに活用しています。
  • GitHub Copilot:
    • 概要: AIペアプログラマーの代名詞。最近搭載されたエージェントモードの機能評価を進めています。
    • 状況: モノタロウでは2023年5月頃から全社的に導入を推進し、現在はGitHubにアクセスするすべての開発者がCopilotを使えます。
  • その他:
    • Windsurf、Claude Codeなどの新しいツールについても、情報収集や調査を進めています。
    • 社内では、Googleの Gemini が利用できる他、社内ホストのLibrechat、Slack上のAIチャットボットMonoChat など日々の仕事のかたわらにAIがいる状況になっています。

これらのツールの選定にあたっては、機能や性能はもちろん、費用対効果、既存の開発プロセスとの親和性、セキュリティ、そして何よりも開発者体験を重視し、総合的に判断しています。

セキュリティへの配慮について

生成AIを活用することで得られるメリットは非常に大きく、使わない手はありません。一方で、これらの活用によって新たに生じるリスクは考えなければいけません。
モノタロウでは情報セキュリティ担当からのLLMを活用したシステムの採用ガイドラインがあり、一定の要件を満たしたもののみを使うルールになっています。
AI駆動開発チームから提供するツールは基本的にこれらのアセスメントを通過したものであり、中央集権的にチェックすることでリスクの増大を防ぐことができていると考えます。

今後考慮しなければいけないリスクには様々なものがあります。例えば、LLMの活用によるコード品質の低下や、野良MCP(ModelContextProtocol)サーバーによる情報流出リスク、悪意のあるプロンプトのようなものは典型的です。

リスク・ベネフィットのバランスを考慮しながら適宜ルール策定・ガイドラインの設定・ガードレールの設置などの手を打っていく必要があると考えています。

生成AIを活用したレガシーシステムの移植

ここまでご紹介した社内全体への生成AIへの適応させる活動の他に、生成AIをより具体的な社内課題の解決に生かそうとする試みも進めています。

受注や発注などの管理画面を担うレガシーなシステムの移行で、以下のような取り組みを行っています。

  • LLMを活用したリバースエンジニアリングによるドキュメント生成
  • LLMによるコード生成

リバースエンジニアリング

当社の創業直後である2000年代前半から作られ、保守拡張されてきたレガシーな受注管理システムの移植を進めています。

レガシーシステムがレガシーと呼ばれる所以のひとつが、継ぎ足しによる秘伝のソースコードに十分な仕様書がなく、実装当時の意図が蒸発してしまっていることにあります。
機能を維持したまま移植するためには現行仕様の把握が重要である一方、そのためにはコードを丹念に追ってその意図を復元・想像する作業が必要になります。

調査の作業量を削減するため、AIとロジックを組み合わせて、現行コードを解析をしています。それらのIN/OUTがどのようなものであるのか、どのようなロジックが書かれているのかをAIに説明させるのです。
より具体的には、ソースコードの静的解析→中間表現(JSONなど)→LLMによる説明の付加→ドキュメントとして出力という構成をLangGraphによりワークフロー化しています。
この取り組みでは、ソースコードを元にロジックや依存関係を分解し、それぞれに対して自然言語での説明の生成を与えます。

コメントに記載された社内用語と変数名のマッピングをした上でドキュメントするなど、人間ならば読み取れるがロジックで解析するとコスパが悪いタイプの分析は、LLMの得意分野です。
ロジックによるソースコードの解析とLLMによる分析をワークフローとして組み合わせることで、大きなコンテキストのファイルにも一定の精度でドキュメンテーションできるように設計しています。
この活動により、移植のための調査段階の工数を半減させることができると見込んでいます。

Thought Worksの事例 でもあるように、システムの構文構造をナレッジグラフとして表現することでLLMにシステムの全体像を説明させることができるのではないかということにもチャレンジ中です。

コード生成

先述のリバースエンジニアリングによって得られたドキュメントとソースコードを元に、移植先のシステムの自動生成にも取り組んでいます。
具体的には、移植先システムの画面テンプレート(HTMLテンプレート)の生成や、APIのコードの自動生成などです。
特に単純で繰り返しの多い作業については大幅な工数削減ができそうです。

先述のDevinやCline、Cursorのような汎用開発エージェントがなんでもできる時代も近い可能性はありますが、今、目の前の課題を素早く解決するためには自分たちのワークフローを開発することには価値があると感じています。
もちろん、こういったツールの開発自体にもClineやCursorなどを活用しています。

今後の展望

モノタロウのAI駆動開発はまだ始まったばかりです。

様々な不確実な疑問があります。

  • AI駆動開発の最終系は何か?どこまで行き着くのか?
  • ソフトウェアエンジニアの持つべきスキルにはどのような変化があるか?
  • 企業のシステムはどのようにつくられるべきか?

これらへの答えを探しながら、日々調査と意思決定を繰り返していく必要があります。

一方で、「いま」何をすべきかは明確だと思っています。

生成AIによるシステム開発というパラダイムに皆が触れて、それを使いこなす方法を学びとることです。

そのために、AI駆動開発チームは、「探索」の場作りに投資することが重要だと思っています。

おわりに

モノタロウは、AI技術を積極的に活用し、ソフトウェア開発の未来を切り拓いていきます。この挑戦は、トライ&エラーの連続ですが、開発者自身が変化を楽しみながら、生産性と創造性を最大限に発揮できる環境を目指しています。

私たちの取り組みに興味を持っていただけましたら、採用募集ページをぜひご覧ください。カジュアル面談もやっています。

さて、来る2025年5月7日に開催される AI駆動開発カンファレンス にて、モノタロウでのAI駆動開発の取り組みについて発表させていただくことになりました。今日のブログの内容やその背景、見えてきた具体的な成果など、より深掘りしてお話ししたいと考えています

ご興味のある方は、ぜひ会場(またはオンライン会場)でお会いしましょう!

(執筆担当: CTO-Office 市原)