成功を呼ぶ『騒ぐ』力!新米PMが挑んだインボイス制度対応プロジェクト

いきなりですが、皆さんは「どうしたらプロジェクトマネージャになれるの?」と思ったことは無いでしょうか。

こんにちは。モノタロウの川北です。
今回はプロジェクトマネジメントの技術や方法論ではなく、プロジェクトマネージャを担える人材になる為に私が重要だと考える「心構え」と「ふるまい」についてお話したいと思います。

1.はじめに

1.1.プロジェクトマネージャへの第一歩

私は、入社後は物流部門で5年間勤務し、その後はシステム系部門で基幹システム開発運用保守に携わる傍ら、 プロジェクトマネジメントオフィス(以下PMO)という組織に所属しています。

経歴の通り、私は業務系の部署からシステム系の部署に異動してきたのですが、 異動してすぐに実施した当時の部門長との面談で「今後プロマネの必要性が高まる」と言う話をされました。

「プロマネって具体的に何するん?」

私は率直にこう思いました。
その勢いでPMBOK(プロジェクトマネジメントの知識体系)を手に取ったことを思い出します。

ITベンダー、SIerと称されるような企業では、研修やOJTの体制が整備されていることが多いと思いますが、当社は発展途上の事業会社であることもあり、2021年頃まではプロジェクトマネージャ(以下PM)を 育成・サポートする為の体制がありませんでした。
その為、PMに求められるスキルが不足している人がPMに任命されることが少なくありません。

私も間違いなくその一人でした。
なぜなら、私は過去にいくつかのプロジェクトにメンバーやプロジェクトリーダーとして参画したことはあるものの当時はPMの経験が無かったからです。

そんな私ですが、社内で比較的大規模で難易度が高いと言われていたプロジェクトでPMを担い、それなりの努力が必要にはなりましたが、納期を守ってプロジェクトを完遂しました。

今回は新米PMだった私がプロジェクトを推進する過程で直面した3つの壁と、その壁を打破し、最終的にプロジェクトを成功させるために効果的だったと考える5つの考え方をご紹介したいと思います。

1.2.担当プロジェクトの概要

まずは、私がどんなプロジェクトに挑んだのか、概要をお伝えします。

  • プロジェクト概要:全ての社内システムをインボイス制度に対応させる
  • 対応期間:1年半
  • 関連部門と参画人数:7部門53名(ベンダー協力なし)
  • 改修対象のシステムと機能数:5システム80機能
  • 関連プロジェクト:電子帳簿保存法対応プロジェクト、会計システムリプレイス(これらのプロジェクトが並走しており、互いのプロジェクトに互いの要件を組み込む必要がありました。)

つまり、多組織で取り組む、複雑性の高い、長期間に渡るプロジェクトでした。

新米PMが担うプロジェクトの規模として皆さんにはどのように映るでしょうか。
少なくとも私は、PMを命じられた時点では大規模で重要度の高いプロジェクトだと感じると同時に、強い不安とストレスを感じました。

2.プロジェクト推進の中で直面した壁

今回のプロジェクトでは、特に大きな壁が3つ、私を待ち受けていました。

2.1.その役割、担ったことないんですけど...の壁

前述した通り、当時の私はPMの経験がありませんでした。
自分なりにWBSを作成し、スケジューリングをして、進捗管理をするということは日常業務で実施してきましたが、それは見よう見まねで実施していたに過ぎず、プロジェクトマネジメント技法について体系立てて学んだことはありませんでした。
そんな状態でPM業務を担い始め、1~2ヶ月程経過した時点でプロジェクトマネジメントの知識と経験が豊富な人に進め方や資料をチェックいただくと、案の定多くの指摘を受けました。

2.2.その領域、無知なんですけど...の壁

私の主な業務は基幹システムにおいて受発注、入出荷、各種マスタ情報を倉庫管理システムと連携する為のインターフェースの開発運用保守でした。
しかし、今回のプロジェクトは概要で記載した通り会計まわりの法令対応のプロジェクトでした。
インボイス制度自体が新しい制度で、情報のインプットが大変な上に、会計システムや法対応に関する知識や理解もなく何から始めるべきか分かりませんでした。

2.3.高品質な上に納期厳守って、ハードル高いんですけど...の壁

品質/コスト/納期/スコープ(QCDS)は本来トレードオフの関係にありますが、今回のプロジェクトは法令対応の為、品質と納期の重要度がほぼ同列でした。

(実際に定義されていたトレードオフスライダーはこんな感じ。)

自身の担当領域である基幹システムの設計/開発/テストであれば、普段どのように進めているのか把握しており、制約を遵守する為にどういう手を打つべきか、どう管理すべきか比較的考えやすいものでした。
しかし、担当ではないシステムの開発チームや業務を担うチームが普段どのような進め方をしているのかまでは把握していないため、制約を守る為に必要なアプローチの見当がつきませんでした。

3.壁を打破する為に効果的な5つの考え方

今回取り上げた3つの壁全てを打破する為に私が効果的だと思う5つの考え方をご紹介したいと思います。

3.1. 割り切っちゃおう

プロジェクトを完遂する為に最も重要なのは自身のマインドコントロールだと考えています。
大役を任命されたとき、喜びを感じる人もいれば責任やプレッシャーを感じ素直に喜べない人もいるのではないでしょうか。
今だから言えますが、正直なところ、私はPMを任命されたとき「億劫」「不安」といった気持ちを抱きました。

そこで、私はその気持ちを払拭する為に

"できると思われているからこその任命”

だと考えるようにしました。

会社として重要なプロジェクトを実力の無い人に任せようとは誰も思わないはずです。
「あなたならプロジェクトを成功に導いてくれるのではないか」、「あなたならプロジェクトメンバーもきっとついてきてくれる」と思われているはずだと解釈することにしました。

とはいえ、プロジェクトが始まると進行を妨げるような事象の解消、経営層や取引企業とのコミュニケーション、計画作成や進捗管理など、ハードルの高い仕事が当然のようにいくつも発生します。
私はプロジェクトマネジメントという仕事について、「自分がなんとかしなければ」「うまくやらなければ」と1人で悩みを抱え込んだり、上手くできない自分を責めて自暴自棄になったり、まわりの視線や言動によって心を病んでしまうことがある世界だと認識していました。

まずはその結末を避ける為に、気持ちを割り切ることにしました。

赤ちゃんや幼い子供を想像してみてください。
初めて何かに挑戦するとき、大人はいきなり成功すると思って見ているでしょうか。
多くの人は No だと思います。誰も手を差し伸べなければ99%失敗するでしょう。

これは大人になっても同じはずです。
今の自分の力だけではそのプロジェクトを成功させることは難しい、これからどう動くかが重要、だと考えました。

そう考えることで、当初抱いていた「億劫」「不安」という気持ちはなくなり、気持ちが軽くなりました。

3.2.「ヤバい」って騒いじゃおう

気持ちを割り切ったあとに重要なことは 「どのような行動をとるか」 ということです。
残念ながら気持ちを割り切っただけではうまくいかないのが現実です。
「できないこと」 を「できること」 にしていく為の方法が必要でした。

社会人になると、書籍を読む、Webで調べる、研修を受ける、OJTで学ぶ、見て盗む、という風にして知識を吸収することが多いのではないかと思います。
これらの方法でプロジェクトマネジメントで必要になる管理手法、ツール、考え方など、ある種の “型” のようなものを知ることはできます。
ですが、プロジェクトマネジメントはその型に当てはめれば必ず成功すると言えるほど簡単なものではないと私は思っています。

それはなぜか。

この世に同じプロジェクトは1つとして存在しないからです。

例えば、同じパッケージソフトを導入するプロジェクトはたくさん存在しますが、そのプロジェクトの予算、納期、リソース、関係者までもが全く同じという事はまずありません。
その為、プロジェクトをとりまく環境や状況に応じて臨機応変に対応していく必要があります。
この臨機応変な対応というものが新米PMにとっては難題と言えます。

これを解消する為に私が特に重要だと思う行動がこちらです。

ここで言う "騒ぐ" という行為は、PMを担う上で自身の弱みや今後障壁となる可能性があること、プロジェクトを推進する中でうまくいっていないこと、などを包み隠さず、積極的に周囲に発信(報連相)することを指しています。

これができないとどうなるか。

プロジェクトが上手くいっていない状況、リスクや課題を抱えている状況に自分以外誰も気づかない状況が生まれます。
これでは誰も問題を認識できず、対策が遅れ、プロジェクトの失敗を招く危険性が高まります。

もし、この状況について ”騒ぐ”ことでうまく関係者に情報発信できていたとしたら。
誰かから助言をもらい、リスクや課題に対して早期に対策をして、状況を好転させられる可能性が高まります。

≪余談≫
子供から大人になる過程で分からないことやできないことを正直に言う事や弱みを見せることに抵抗を感じるようになっていく傾向があるように思います。
子供のときはそのようにふるまってしまう気持ちもわかるのですが、大人になってからは逆に弱みを積極的に発信していくほうがいろんな意味で良いことが沢山あると感じます。

3.3.何が「ヤバい」のか考えてみよう

では、具体的にどのようなことを騒げば良いのか。
私は「ヤバい」を把握する為に「できないこと」「わからないこと」「不安なこと」「自信がないこと」を自問自答して洗い出しました。

今回担当したプロジェクトの初期と最中で断片的に切り取ってみると以下のようなイメージです。

”騒ぐ”ことで得られる最も大きなメリットは知識や知恵を最大化できるところだと私は思ってます。

私はこういう人間ではないので、自身が持つ知識や知恵だけでなく、プロジェクトの関係者、ひいては全社員、さらには外部の知人や取引先など全ての人が持っている知識や知恵を引き出して活用していけばよいと考えるに至りました。

3.4.誰に騒ぐか考えよう

”騒ぐ”という行為は”積極的に周囲に発信していくこと”を指すと言いました。
むやみやたらと騒ぐだけでは大した効果を得られない場合があります。
例えば ”わからないことがわかっていない”という状況。
さすがにこれは、豊富なプロジェクトマネジメント経験を持つ人でなければ、助言するのは難しいでしょう。
”騒ぐ事象” に応じた ”騒ぎ先” も考慮し、”その領域に詳しい人に教えを乞う”ことが重要だと考えています。

プロジェクト計画書を作成するタイミングで会議体に “騒ぐ為の会議” をプロジェクト開始当初から設定してしまうことも効果的です。
実際に私は豊富なプロジェクトマネジメント経験を持つ人に定期的な相談の時間を設けてもらい、プロジェクト推進における各フェーズにおいて考慮が不足している観点が無いか、
定期的に確認することで ”分かっていないことに気付ける” 会議体を設けていました。

「騒ぐことが大事なのは分かったけど、サポートしてくれそうな人や組織が存在しない、、、」
このような人もいるかもしれません。

事業を推進する上でプロジェクト管理のナレッジや人材は必要不可欠なので、プロジェクトマネジメントに精通した人や体制は存在すべきだと私は思いますが、社内に存在しなければ、外部のリソースを使うという選択肢もあります。
コストはかかりますが、会社の命運を掛けたプロジェクトにおいてそのような選択肢をとることも重要な判断になると思います。

3.5.騒ぐ+αで自走力を身に着けよう

騒ぐことの重要性についてお伝えしてきましたが、自信が無いからといって何でもかんでも騒いで、人に教えを乞い、その通りに実践しているだけでは、PMとしての存在意義が薄れ、PMとしての成長スピードも上がりません。

私はPMとして成長する為にも、正しいかどうかは度外視して、騒ぎたい事象に対して自分なりの対応策を考えることを徐々に意識しました。
その上で、その対応策に問題はないか、さらに良い方法が無いか確認したい、あるいは対応策の検討に時間がかかりプロジェクト全体の納期に影響が出る、と判断した場合に騒ぐようにしていました。

これが身に着いてくると、”騒ぐ”というよりは通常の報連相に近いニュアンスになってきます。
ここまでくると、プロジェクトの成功可能性を高めつつ、PMに求められる ”臨機応変に対応する力” も高められるのではないかと思います。

4.さいごに

プロジェクトマネジメント経験の浅い私がどのようにしてプロジェクトを完遂したのか、私が効果的だと思う考え方についてお伝えしてきました。

私はこのプロジェクトでPMには大きな責任とプレッシャーがのしかかるということを身をもって実感しました。
ですが、プロジェクトマネジメントにおいては実績やスキルが不足していればいるほど、気負いしすぎず、経験値の高い人やその道のプロに頼って進めようというマインドを持つことがとても重要だと心から思いました。
幸い、モノタロウにはプロジェクトマネジメントに精通した社員、PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)という組織が存在しており、私自身はその存在にかなり助けられました。

当初は大きな不安を抱えていましたが、割り切って、騒いで、教えを乞うことを繰り返すことで、日々成長できている実感が湧き、半ば楽しみながらプロジェクトマネジメントを実施しているなと感じる時期もありました。
このブログが、PMの任命を受ける人の心理的なハードルを下げ、PMをやってみようと思う人が増えるきっかけになれば嬉しく思います。

ちなみに、PMという役割が若手に回ってくるということは、そのような人材が決して多くないということを意味しています。
会社としても課題意識を持っており、プロジェクト推進レベルの向上に向けて、プロジェクトマネジメント研修の充実、PMO組織の強化に力を注いでいます。

プロジェクトマネジメントの力でモノタロウの更なる成長にお力添え頂ける仲間が増えることを願っています。
ご一読いただきありがとうございました。